未来の疑問

 遠い未来,人間と問題なく知的な議論ができるほど高度な人工知能プログラムが開発されたとしましょう.このプログラムには意識があり,我々と同じように自ら思考することができます.さて,このプログラムがある日,ふと疑問を持ちました.

「人間は2本足で歩くことができるが,空を飛ぶことはできない.計算機上に実装された我々にとって,できること,できないことは何だろう?」


 言い換えれば,「人間の運動能力は力学など原理に縛られているが,計算機の能力を縛る原理は何なのか」という疑問です.

理論計算機科学からのアプローチ

 内澤研究室では,理論計算機科学と呼ばれる分野の研究を通して,上記の疑問に取り組んでいます.具体的には,コンピュータで解くことが求められる様々な問題を対象にして,その問題が計算機にとって「簡単な」問題なのか,あるいは「難しい」問題なのか,ということを理論的に調べています.

 問題の簡単さ,難しさを表す尺度は様々ですが,例えば,その問題を解くためにかかる「計算時間」という尺度で考えてみましょう.この場合,「簡単」であることを示すためには,着目している問題を解くアルゴリズムの開発を実際に行った上で,そのアルゴリズムが高速に処理を完了できることを理論的に保証します.一見すると難しい問題が,巧妙なアルゴリズムを設計することによって高速に解ける,ということも多くあります.逆に「難しい」ということを示すためには,その問題を高速に計算することは,コンピュータの原理から不可能である,ということを証明しなければなりません.

 こうした研究を通して,「計算機が生きる世界」の原理を明らかにすることが,研究室の大きな目標です.